富永研究室 Tominaga Lab |
早稲田大学 教育・総合科学学術院 生物学専修 統合細胞生物学研究室 ICBL, Integrated Cell Biology Laboratory |
分子生物学 イメージング 個体レベル バイオマス増産 |
自由に移動できる動物に対して,植物は根を下ろした場所から生涯動くことができません。根ざした環境下で生きていかなくてはならない植物にとって,周辺環境を検知し,それに見合った大きさや形に成長する仕組みは不可欠です。そのため植物は,動物にはない様々な環境応答機構を発達させてきました。 そのような植物の細胞内を顕微鏡でのぞいてみると「原形質流動」と呼ばれる非常に活発な細胞内運動が観察できます。原形質流動は細胞骨格(アクチン)の上をモータータンパク質(ミオシン)が運動することにより発生し,様々な植物機能の制御に関与していることが示唆されています。動けない植物はアクチンと植物特異的なミオシン(クラスVIIIとXI)を用いた独特の細胞内輸送システムを進化させてきました。すなわち,植物特有の輸送システムは植物の成り立ちそのものを反映していると考えられます。 私たちの研究室では,細胞生物学・分子生物学・ライブイメージングなどの技術を駆使し,植物の細胞内輸送の仕組みを解明していきます。最終的には植物の成り立ちを,分子から個体レベルまで“統合的”に理解することを目指し研究を進めています。 |
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分子生物学(遺伝子操作で細胞の機能を調べる) |
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細胞は,細胞膜で囲まれた小さな袋の中で遺伝子の塩基配列に記されたされた何万種類ものタンパク質が働くことで生きています。タンパク質の設計図である遺伝子の情報を書き換える遺伝子操作技術によって,タンパク質を人工的に変化させ,植物の細胞内での機能を調べたり,人に役立つ機能を加えたりすることができます。 私たちの研究室ではアクチン-ミオシンによる輸送を理解するために,輸送を担うミオシンなどの遺伝子を操作し,タンパク質レベルでの機能改変を行っています。“タンパク質レベル”での運動や機能変化が”細胞レベル”や”個体レベル”で植物にどう影響するかを調べることで,ミオシン機能をより深く詳しく理解していきます。 |
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![]() 植物細胞内におけるアクチン繊維に沿った細胞内輸送。 Tomianga and Ito, 2015, Curr. Opn. Plant Biol. |
![]() ミオシンの運動によって細胞内小器官が運ばれ,原形質流動が発生する。 Tomianga and Ito, 2015, Curr. Opn. Plant Biol. |
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![]() モデル植物シロイヌナズナには,ミオシンVIIIが4種類,ミオシンXIが13種類存在する。 Tominaga and Nakano, 2012, Front. Plant Sci. |
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ライブセルイメージング(細胞を生きたままで観察する) |
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オワンクラゲから緑の蛍光を発するタンパク質(GFP)が発見されたことによって,細胞生物学に革新的技術がもたらされました。GFPの遺伝子と調べたいタンパク質の遺伝子を遺伝子操作で融合させ,細胞内のタンパク質の様子を生きたまま光らせて観察することが可能となりました。 蛍光タンパク質との融合により,植物ミオシンと積荷であるオルガネラあるいはアダプタータンパク質を植物細胞内で可視化します。高速型共焦点顕微鏡によるライブイメージングを行い,植物ミオシンメンバーそれぞれに特異的な局在や運動,相互作用を高い時間・空間分解能で“見る”ことによって,植物特異的細胞内交通の制御機構を明らかにしていきます。 | ||
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個体レベル |
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ミオシン分子機能と植物高次機能の直接的相関を明らかにしていきます。私たちは,植物ミオシンの速度を人工的に改変するというを今までにない解析システムを開発しました。世界最速シャジクモミオシンXIのモータードメインを,シロイヌナズナミオシンXI-2に融合した高速型キメラミオシンXIは,原形質流動を高速化すると共に,植物を大型化することが明らかとなりました。対して,ヒトミオシンVのモータードメインを融合した低速型キメラミオシンXIは,植物の小型化を引き起こしました。 この速度改変システムをシロイヌナズナで発現する全17種類のミオシンに適応することによって,それぞれの細胞内機能の解明を進めて行きます。分子・細胞レベルの研究と組み合わせることにより,分子から個体レベルまでを横断する基本原理の理解が可能になると考えています。 |
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バイオマス増産(JST-さきがけ,JST-ALCA研究開発課題) |
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私たちは,植物ミオシンの速度を人工的に速くするという世界的にも類をみない解析システムを開発しました。植物が陸上に挙がる前の共通祖先である藻類シャジクモでは,陸上植物より10倍以上も速い原形質流動が発生しています。その原形質流動を発生しているシャジクモミオシンは,生物の中で最も速いモータータンパク質です。生物界最速のシャジクモミオシンのエンジンにあたるモータードメインを,陸上植物のミオシンに遺伝子工学的に融合することで高速型キメラミオシンを作り出しました。高速型ミオシンをモデル植物シロイヌナズナに遺伝子導入したところ,原形質流動を高速化すると共に,植物を大型化したりや種子生産量を増加させることが明らかとなりました。 原形質流動はあらゆる植物で見られる現象です。すなわち,原形質流動の人工的高速化による植物のサイズ増強は,食物やバイオマスに重要な様々な資源植物に応用可能だと考えられます。最近,私たちはバイオディーゼルの生産植物として注目されているカメリナに高速型ミオシンを導入し,種子生産量を増加させることに成功しました。これにより大気中の二酸化炭素を増やさないバイオ燃料の増産が期待できます。私たちは原形質流動の高速化を,将来的に地球温暖化などの環境問題解決に資する「基盤技術」と考えて研究開発を進めています。 |
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![]() 速度改変型キメラミオシンを発現させたシロイヌナズナ (左) 野生株。 (中央) 高速型ミオシン発現株。 (右) 低速型ミオシン発現株。 |
![]() 高速型ミオシンを発現させたカメリナの成長促進と種子数の増加 |
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